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最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)643号 判決

上告人

弓野恵造

被上告人

久原正二

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由一について。

将来における継続収入の債権の一種である建物の賃料債権の差押は、差押債権額を限度として、差押後に収入すべき賃料に及ぶものであるところ(民訴法六〇四条)、基本たる建物の賃貸借契約が第三債務者である賃借人との間に存続する以上、右第三債務者に対する差押命令が送達されてその効力が発生した後は、差押債務者がする賃料債務の免除は、その事情のいかんにかかわらず、差押債権者を害する限度において差押債権者に対抗できないと解すべきである。これを本件についてみるに、差押債務者である横山一江は、第三債務者である上告人に本件建物を賃貸していたが、右建物の敷地の所有者から提起された建物収去土地明渡訴訟に敗訴したので、上告人に対する差押命令の送達後、上告人に対し将来の賃料債務を免除したというのであるから、右免除は、差押債権者を害する限度において差押債権者である被上告人に対抗できないというべきである。されば、これと同趣旨の原判決は正当であつて、論旨は、独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて、採用できない。

同二について。

所論は、憲法二九条違反をいうが、その実質は、民訴法六〇四条の解釈適用に関する原判決の判断を非難するにすぎない。しかし、その理由のないことは、上告理由一に対する説示において述べたとおりである。されば、論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)

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